初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
「奥様が納得されているのであれば、私からは何も申し上げることはございません。私は、いつでも奥様の味方ですから」
「ありがとう、ナナ」

 彼女がいるから、この場所でもなんとかやっていける。

「おやすみなさいませ」
「おやすみ」

 ナナの背を見送ると、室内は静けさに包まれる。空気もほんのりと冷え、夜が深まっていくのを実感する。
 この夜気は、まるでケイトとイアンのようだ。時間が経てば経つほど冷え込んでいく。
 二人の間に何もなかったことを、使用人たちは知っているだろう。初夜が明けた日の朝、寝台に乱れがないのだから一目瞭然だ。

 痛む胸を抑え込むようにして、ケイトは寝台へと潜り込んだ。掛布に包まれると、身体と心が次第にあたたまっていく。
 ナナが温めてくれていたのだろう。
 彼女の気遣いに、胸の奥が痛くなる。自然と目頭が熱くなった。こぼれそうになる涙をこらえる。

 なぜこんな結婚をしてしまったのか。

 それはイアンの友人であるラッシュの屋敷で開かれた夜会が原因だ。ラッシュはイアンの友人なだけあり、ベネター侯爵家の嫡男である。
 その夜会に、ケイトも招待を受け出席していた。ベネター侯爵家は、カーラ商会の上客でもあるのだ。そんな縁もあって、ケイトとラッシュも顔馴染であった。

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