《夢見の女王》婚約破棄の無限ループはもう終わり! ~腐れ縁の王太子は平民女に下げ渡してあげます
夢は終わり現実が始まる

8年後の現実世界、円環大陸サミットにて

 円環大陸では3年ごとに、大陸の各地域を代表する国家の首脳が集まる会合、サミットがある。

 議長は永遠の国のハイヒューマンたちが交代制の持ち回りで担当し、今回カレイド王国の開催回では魔王とも呼ばれる神人ジューアが請け負っていた。
 彼女はこの国の守護者カーナの友人でもある。
 カレイド王家とトラブルを起こしてカレイド王国に出入り禁止にされたとの噂があったが、青銀の長い髪と湖面の水色の瞳を持つ麗しの乙女は、何食わぬ顔で議長席に座っていた。

 参加国家は大陸の各地域から最大3ヶ国まで。どの国が参加するかは、各地域の首脳陣の話し合いの上で毎回決めることになっている。
 国力の強い大国は有利だが、脆弱な小国や新興国でも3ヶ国の3枠のうち1枠に必ず順番で入れるようにとの決まりがあった。



 サミットは円環大陸の国家間の国際問題を話し合う場だ。
 政治問題や経済問題が主な議題だが、近年では国の民主制への移行の相談も増えている。
 王政国家の場合は、王家の在り方について議題に上がることも多い。

 サミットの開催期間は3日間。
 そして最終日の今日、大陸北西部、アケロニア王国から参加していたグレイシア王太女が挙手した。

「開催国、カレイド王国のマーゴット女王に尋ねたい。あなたは既婚者でありながら、バルカス王配以外との子供を産み、育てていると聞く。王族の序列を乱す蛮行に思えるが、自身の行為の是非についてお答え願いたい」

 今回、アケロニア王国からは3名が参加している。
 全員、彼らの国の王族の正装である黒の軍服姿だ。
 代表は先王のヴァシレウス大王。ここ数回は体調不良で欠席が続いていたが、久し振りに見る彼は高齢ながら元気そうだ。
 その孫娘のグレイシア王太女。成人後は立太子して次期女王となることが確定している。

 そして今回初めて参加となるのが、彼らと同じ席にいる金髪碧眼の甘い美貌を持った若い女性だ。
 彼女はタイアド王国に輿入れした大王の王女の孫で、大王からは曾孫にあたる人物だ。
 それだけでなく、何と曽祖父のヴァシレウス大王の後添えとなり現在アケロニア王国に帰化して、間もなく女大公に叙爵されると言われている人物である。
 近親婚だが、円環大陸には祖父と孫の結婚は禁止されていたが、曽祖父と曾孫の結婚は規定がない。
 驚いたことに政略結婚ではなく恋愛結婚だそうだ。

 グレイシア王太女は他にも、マーゴット女王が王配であるはずのバルカスを冷遇していることや、前国王と王妃を幽閉していることなどを指摘した。
 これらは多国の代表者たちは知らなかった者が多く、マーゴット女王の所業は非道徳的で非人道的であると問題視する意見や批判が相次いだ。

 実際、18歳で女王に即位した後のマーゴット女王は独裁的な言動が見られ、それでいて国政に隙が多く、政務もたびたび疎かにすることが知られている。

「なぜ、世界の理を司る神殿や守護者の神人カーナ殿がマーゴット女王を見逃しているのか。わたくしは疑問に思うのだ」

 じっと、黒い瞳で強く、グレイシア王太女がマーゴットを見つめてくる。
 マーゴット女王と彼女は昔からの文通友達で親しかったが、マーゴットが女王に即位した頃から交友が途絶えていた。



「わかりました」

 この辺が潮時か、とマーゴットは声を張り上げて一同の視線を集めた。

「私もそろそろ疲れてしまった。謎明かしは我が国の守護者カーナに委ねましょう」

 女王は王宮内のサミット会場になっていた大会議室の壁際に控えていた侍従に、息子を呼びに行かせた。
 マーゴットの私生児とされる男子は侍従に抱かれてすぐ姿を現した。会合の前から近くの控室に待機させていたのだ。

(今回のサミットでグレイシアたちが私を糾弾することはわかってた。……ふふ、我ながら本当に酷い国王だもの)

 国を脅かす厄災の魔への対処に奔走して、国王として本来やるべき政務はほとんど疎かにしたまま、臣下たちに丸投げしている。
 公務でもバルカス王配を伴うことがない。
 誰が父親かわからない子供を儲けている。

「まーごっと」

 侍従から小さな子供を受け取り、プディング風の色彩のドレスの膝の上に座らせた。
 黒髪に琥珀の瞳を持った、優しく品のある顔立ちの男児は舌足らずにマーゴットの名前を呼ぶ。

「皆様に紹介します。我が息子……ではなく、カレイド王国の守護者カーナ殿です。不幸な事件のため魔力を消耗してしまって、子供の姿のまま回復を待っていた。その間、私の息子カウニスとして育てていたのですよ」

 グレイシア王太女は安心したような小さな溜め息を漏らしていた。彼女なりに親友マーゴットの貞節を信じてくれてはいたようだ。
 ヴァシレウス大王も小さく頷いている。

 その隣の大王の伴侶の女性は、まだ二十歳になるかならないかの年齢だったはず。
 黒い軍服に身を包み、明るく緩い癖のある金髪を既婚者らしく乱れのないアップスタイルにしているが、まだまだ少女のような雰囲気がある。
 その彼女が、大きなエメラルド色の目で、不躾にも思えるほど凝視するようにマーゴットを見つめている。

(名前は確かセシリアだったわね)

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