厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています
 皇太后の許しがなければ入れない皇室の庭園は、帝国屈指の庭師によって管理された薔薇の垣根を抜けた先にある。開けた場所には白いガーデンテーブルがいくつか設置され、集まった令嬢たちがお茶とお菓子、そして歓談を楽しんでいた。
 一歩前に進めば、今まで小鳥の囀りのように響いていた笑い声が、嘘みたいに静まる。全員の目が一斉にフランへと向けられ、痛いほど突き刺さってきた。

 見回さずとも、この会の主催者である女性の居場所はすぐにわかった。最も華やかで、存在感のある広場の中央――。こくんと喉を鳴らしながら、豪奢な椅子に腰かけて待つ皇太后の元へと挨拶に向かう。

「皇太后様にご挨拶申し上げます」

 じっと値踏みするように見つめてくる、皇太后ヴィクトリアの視線は冷たい。

「フラン・ミア・シャムール。皇妃の部屋の使い心地は、どうかしら」
「わ、わたくしにはもったいないくらいで……」
「あら、そう。それならば、いつまでも居座っているのはどういうこと?」

 声の調子からも、不快に思われていることがひしひしと伝わってくる。帝国の母たる人物の怒りを受け止める度胸はなく、顔を上げることができなかった。
< 107 / 265 >

この作品をシェア

pagetop