厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています

ざわめく帝国と乙女心(5)

       *

 ――褒美はなにがいいかと尋ねて、フランから返ってきたのは意外な願いだった。

『街を……陛下の作る国を、見てみたいです!』

 後日その希望を叶えるため、ライズは半日分の予定を空け、フランを連れて城下町へとやってきた。
 目立たないよう忍んでの行動のため、ふたりとも普通の貴族の格好をして、目深に帽子を被っている。街の視察はこれまでにも不定期で行っていたのだが、近頃は忙しくて足が遠のいてしまっていたから、ちょうどいい機会ではあった。
 天気に恵まれて澄んだ空の下、街並みも輝いて、奥にそびえる居城も伸びやかに見える。

 住民の憩いの場である中央広場は、明るく賑わっていた。
 たっぷりとした水を噴き出す噴水は虹を作り、涼感を生み出している。花壇には色とりどりの花が生けられ、ベンチで貴婦人らが談笑する平和な風景。美観はなかなかのものとはいえ、たいして珍しくもないそれをフランは目を輝かせ、熱心に眺めている。

「わぁ……! この広場、初めて帝国に来たときに馬車の中から見えたんです。すごくステキ……」

 あまりにきょろきょろと目移りしているものだから、目を離すとはぐれてしまいそうだ。

「フラン、あまり遠くへ行くな」

 手を掴んで隣に引き戻す。繋いだままで進もうとすると、焦った声が追いかけてくる。

「へ、陛下……!」
「陛下と呼ぶなと言ったろう。身分が知られては面倒だ」
「ラ……ライズ様。あの、手を……」
「このままでいい」
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