厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています
 ねだるように見つめられ、フランは思いきり返事に詰まってしまった。
 別に出し惜しみするつもりはないが、物理的な問題で今は引き受けることができないのだ。体力は回復しても、まだマナの器は空っぽに近い状態だった。
 原動力となるマナが戻らないうちは、変身はできないし、癒やしの力も使えない。こんなことは初めてで、いつ元の状態に戻れるのか見通しも立っていなかった。

「も……申し訳ありません。実は、まだ力が回復しきっておらず……」
「あら、そうなの……? それなら仕方がないわね……」

 皇太后が残念そうな顔で首を傾げる。無理強いするつもりはないらしい。

「母上。フランを困らせないでください」

 ライズが席を立ち、フランのそばに来て手を差し伸べた。

「フラン、そろそろ部屋に戻ろう」

 周りをよく見ている彼は、紳士的で気遣いも細やかだ。ありがたくその手を取って、この場は失礼させてもらうことにする。
 そんなフランに、皇太后とルークは名残惜しそうな表情を見せた。

「あら、もう行ってしまうの?」
「フラン、またね」

 ぜひ次の機会にと笑顔を作り、ルークにも体を大事にしてほしいと伝え、部屋をあとにした。
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