厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています
(皇妃を決めたら決めたで、新たな問題が持ち上がるに決まっている。女というものは鬱陶しくてかなわん)

 いずれは妃としてふさわしい人物を娶り、子孫を残し、国を存続させる務めを果たさねばならないことはわかっているが、まだそのときではない。

 幼い頃から懐柔しようと近づいてくる女性は後を絶たなかった。
 権力欲と媚びを滲ませた表情には虫唾が走る。色仕掛けで迫られたこともあったし、暗殺者が紛れていて自ら対処したこともしばしば。
 積み重なった黒歴史の数々――平たく言って、皇太后が用意した「この世の楽園」らしき花離宮の姫たちには、まるで興味を持てずにいる。

「失礼いたします。陛下、お気持ちの休まるお飲み物をお持ちいたしました」
「ああ、もらおう」

 執事であり補佐も兼ねている側近のクリムトが、柔らかな湯気を立てる紅茶を主人の前に差し出した。
 この白髪の交じるベテランの彼とは付き合いが長く、気の置けない腹心の部下だ。
 ライズは知らず強ばっていた眉間を指でほぐしながら、空いているほうの手をカップに伸ばし、鼻に抜けるハーブの香りを楽しんだ。
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