厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています
 隠れているワゴンの天井部分から、かすかな作業音が響いてきた。男性がカバーをはずし、中の料理を取り出しているのかもしれない。
 そのまま息をひそめて様子をうかがっていると、やがて分厚いクロスを通して、男性ふたりの会話が漏れ聞こえてきた。

「そろそろ休憩をおとりになってください」
「ああ……。わかったから、この書類を事務官に届けてくれるか。それから、次にいい加減な申請を上げてきたら、首をすげ替えると伝えておけ。文字どおり担当者の首をな」
「かしこまりました」

(ひぇ、なんだか怒っているみたい……)

 側近の男性は、上司から言いつけられた用事を遂行すべく部屋から出ていったようだ。
 残ったほうの人物は、どうしているのだろう……。室内は静まり返り、様子が読み取れなくなってしまった。

 物音ひとつしないし、気配も感じられない。
 もしかして、疲れて眠ってしまったとか。それとも、続きの部屋に移動するなりして、この場から離れたのかもしれない。
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