縁切りの神様と生贄婚 ~村のために自分から生贄に志願しましたが、溺愛がはじまりました~
驚いて顔だけ振り向くと、切神は頷いた。
そう言われれば薫子も村であの兄弟を見たことはないかもしれない。

「あの兄弟は窃盗を繰り返して村から村へと渡り歩いているようだ。だから、私の力の及ぶ兄弟ではない」
切神はあくまでも村の神様だ。

村人以外の願いは聞き入れられない。
そんなことをしていれば、神様といえど力を使い果たしてしまうだろう。

あの兄弟と餓鬼を切り離すことはできない。
その事実に薫子はどうしても考え込んでしまう。

自分にはなにができるだろうか。
どうすればあの兄弟をすくうことができるだろうか。

そんなことばかりが頭を埋め尽くす。
「今日はもう遅い。屋敷へ戻ろう」

そう言って腰に手を回す切神を薫子は左右に首を振って拒絶した。
今日はまだ、屋敷でゆっくり休む気にはなれなかった。
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