紅色に染まる頃
第二十三章 美紅の強さ
「時の宿は、四季折々で場所を変えて楽しめるように増やしていく。例えば春は弘前の桜、夏は長野の阿智村の星空、秋は京都の紅葉、そして冬は岐阜の白川郷など、一年を通してお客様に日本各地の時の宿を楽しんで頂きたい」

会議室に伊織の声が響く。
美紅はその言葉の内容に合わせて、写真や資料をプロジェクターに映し出した。

木崎社長が頷いて先を続ける。

「既に決定した弘前については、来年の3月に開業予定だ。他の宿もこれから下見を重ねて検討していきたい。各部署で担当を振り分け、情報を共有しながら進めてくれ」
「はい!」

美紅と伊織の二人で始めた新しい挑戦は、今や会社の大きな要事業となり、二人だけの手を離れて社員総出で取り組むことになった。

「ここまで軌道に乗れば大丈夫。本当に二人ともよくやってくれた」

会議の後、木崎社長が美紅と伊織に労いの言葉をかける。

「結婚式の準備もあるだろうし、これからは少し仕事を減らしなさい。あ、新婚旅行は?もう決めたのか?」
「いえ、まだ何も。二人とも特に希望もなくて」
「おいおい。本堂リゾートの副社長夫妻が何を言う。お客様に旅行をご提案する立場なんだぞ?仕事の一環だと思って、ちゃんと楽しんできなさい」
「はい。ありがとうございます」
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