紅色に染まる頃
第五章 Bar. Aqua Blue
(へえ、小笠原一族のご長男は、主に飲食店事業を展開しているのか)

月曜日になり出社した伊織は、ホテルの参考にしようとBar. Aqua Blueについて調べていた。

今までは同業他社、つまりライバルとなるホテルばかりリサーチしていたが、あのバーは自分の思い描く理想のヒントになる気がしていた。

(え、あのレストランも彼が経営しているのか)

グルメな著名人の間で話題の店や有名な3つ星レストランなど、伊織も利用したことがある店が、美紅の兄の会社が手掛けていると知って驚く。

(なかなかのやり手だな。それに一つ一つ、お店のコンセプトやこだわりが明確に違っている)

ホームページを見ながら、色々な雰囲気の店やバーを見比べていく。

(どんな人なんだろう、彼女のお兄さんは)

バーで美紅と気さくに話していたバーテンダーの兄の様子を思い出す。
二人ともごくごく普通の話し方で、名家の子息令嬢といった雰囲気はまるでなかった。

あの後、伊織のマンションからタクシーで美紅をワンルームマンションまで送って行くと、美紅はにこやかに礼を言い丁寧に頭を下げた。

その振る舞いはやはりご令嬢といった感じで、きっと美紅がくだけた口調になるのは兄に対してだけなのだろう。
それ程兄妹の仲が良い証拠だった。

(話を聞いてみたいな。ご迷惑だろうか)

少し躊躇したが、どうしても気持ちが抑えられず、伊織は仕事終わりにまたあのバーに立ち寄ることにした。
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