紅色に染まる頃
「ふーん、なるほどねえ」

バーカウンターの内側で、紘は美紅が差し出した招待状を見て考え込む。

「兄さんはどう思う?家族で伺った方がいいかしら」
「んー、いや。取り敢えず今回は、父さんは行かない方がいいと思う」
「それはなぜ?」

すると紘は、じっと一点を見つめて言葉を選んでから口を開いた。

「美紅。今お前が本堂リゾートと手を組んで事業を進めていることは、必ずしも皆にとって良い話とは言えないんだ。はっきり言うと、否定的な考えの人もいる」

えっ!と美紅は言葉を失う。

「旧華族は古くから伝わる家柄とあって、妙に保守的な部分がある。変なプライドなんかもな。俗世間とは関わるな、とか、血筋を守る為に親が結婚相手を決めるとか、時代錯誤な考えの一族も多い。小笠原家はそんな考え方をしないが、勝手に一緒にされるんだ。お前達も旧華族だろう、品位を落とすことをすれば他の一族にも迷惑だってな」

初めて聞く話に、美紅は返す言葉が見つからない。

そんな泥々した世界だったなんて。
自分が知らないだけで、周りはそんな考えをする人達だなんて。

他の旧華族の家とも面識はあるが、まさかそんなふうに思っていたとは。

愕然とする美紅に、紘は難しい顔で続ける。

「美紅と本堂リゾートの話も、折を見て俺が説明する場を設けた方がいいかと考えていたんだ。そこは慎重に進めたい。だからこのパーティーで、本堂リゾートが大々的に発表する場に父さんはいない方がいいと思う。せめて、俺と美紅だけかな」

美紅はかすれた声を振り絞って紘に謝る。

「兄さん…。私、知らず知らずのうちに兄さんに迷惑をかけていたのね。ごめんなさい」

美紅の言葉を紘は明るく笑い飛ばした。

「何言ってんだ。迷惑なもんか。美紅、お前は俺の自慢の妹だ。古い考えに囚われず、変なプライドなんて持たずに、自分の信念を貫いて生きていこうとしている。それでこそ小笠原の娘、俺の妹だ。自信を持って真っ直ぐに進めばいい」
「兄さん…」

美紅の目に涙が浮かぶ。

「パーティーには、俺とお前の二人で行こう。俺がお前を守る」

きっぱりと紘が言い切った時、ふいに後ろから明るい声がした。

「あら、私は置いてけぼりなのかしら?」
「エレナさん!」
「私にとっても美紅ちゃんは可愛い妹よ。私も美紅ちゃんを守るわ。ね?いいでしょ?」

エレナに問い詰められ、紘はやれやれというように頷いた。

「やったー!美紅ちゃんとパーティー、楽しみ!」

ふふっとエレナに笑いかけられ、美紅も涙を拭って微笑んだ。
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