紅色に染まる頃
「おや、こんな綺麗な女性がお一人とは。私がお相手しますよ」

いつの間にか、エレナの近くに男性が寄ってきた。

既に酔いが回っているらしい。
馴れ馴れしくエレナの肩を抱こうとする。

エレナは身をよじって男性から離れた。

「お生憎様。あなたのお相手なんて結構です」
「なんだと?」

カチンときたらしい男性が、今度は強引にエレナの腕を掴む。

「離して!」

エレナが振りほどこうとするが、男性はかなり力を入れているらしく、びくともしない。

美紅はじっと男性を見据えると、スッと近づいた。

「離してください。彼女に触れていいのはただ一人だけ。あなたではありません」
「はあ?何言ってるの、君」
「離しなさいと申し上げているのです」
「着物着てるのに生意気な口きくね。ああ、さっき紹介されてたお嬢様か。世間知らずのお嬢ちゃんは引っ込んでな。これは大人の男女の話なの」

そう言ってエレナの腕を更に引き寄せようとする。

美紅の中で何かがプツリと切れた。

左足を前に踏み出すと、右手で男性の腕をグッと掴む。
左手で襟元を掴んで引き寄せると、バランスを崩した男性の足を、右足で思い切り振り払った。
そのまま自分の体重をかけ、男性を床に組み敷く。

「な、何をする!離せ!」

大声を聞きつけて、伊織と紘がバルコニーに駆け込んで来た。

「美紅!エレナ!どうした?」

ハッと我に返った美紅が手を緩めると、男性は這いずりながら起き上がり、乱れた服を整えてから美紅を睨んだ。

「なんて失礼な。こんな侮辱行為、許される訳がない。覚えておけ!」

男性が立ち去ったあと、美紅は自分のやってしまった行いに青ざめていた。
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