紅色に染まる頃
「ソファに座ってて。今温かいミルクティーを淹れるから」
「はい、ありがとうございます」

暖房が効いた部屋にホッとして、美紅はソファに腰を下ろす。
伊織と並んでミルクティーを味わった。

「そんなに長い間何をやってたの?ウッドデッキで」
「えっと、夕焼けを眺めていました。オレンジと黄色のグラデーションがとても美しくて、だんだん群青色に染まって。一瞬たりとも目が離せなくて」
「ふーん。その調子だと、夜は綺麗な星空を眺めていて一睡も出来なかった、とか言いそうだな」
「まあ、星空!素敵でしょうね…」

既にうっとりする美紅に、伊織は苦笑いする。

「くれぐれも風邪を引かないようにね。あと、夜更かしもほどほどに」
「はい、気を付けます。あの、本堂様」
「何?」
「こんなに素晴らしいお部屋を貸して頂き、本当にありがとうございます」

そう言って頭を下げる美紅を見て、伊織は考えを巡らせる。

「君はどうしてあのワンルームマンションに引っ越したの?もっと広い、それこそこういう部屋だって借りられるでしょ?」
「いえ。私のお給料ではあのワンルームマンションが精いっぱいです」
「君のお給料?小笠原の財産は分け与えられていないの?」
「え?はい」

美紅がキョトンとしながら答える。

(自分の家の財産を頼ろうという気はサラサラないのか)

きっと美紅は、ごく一般的な金銭感覚を持っているのだろう。

振り袖などの着物は、恐らく代々受け継がれてきた上質のものだが、今のような服装はカジュアルなブランドのものだ。
アクセサリーもほとんど着けていない。

それでも上品に感じられるのは、美紅自身から溢れる気品の高さによるものに違いない。

(外側を着飾らずに内面を磨くお嬢様…か。今の時代によくぞこんな人が存在するもんだ)

知れば知るほど、伊織は美紅に感心する。

(俺も見習わなければ)

大事なのは己の内面だ。
自分がしっかりと持つべき信念や強さ、そして努力と謙虚さ。

伊織は隣に美紅がいることで、ますます身が引き締まるのを感じていた。
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