捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした

きらびやかなイメージが先行し、自分に務まるだろうかと尻込みしていたが、実際の秘書の業務は華やかなものではなく、黒子のような存在だ。

自身が表立ってなにかするというよりは、誰かのサポートに徹する仕事は凛の気質に合っていたようで、今は粛々と日々の仕事をこなしている。

グレーのシンプルなスーツに身を包み、一度も染めたことのない艷やかな黒髪を後れ毛ひとつないよう纏めて、化粧品会社の社員としては少々薄すぎるほどナチュラルなメイク。

真面目でお堅い秘書のステレオタイプのような見た目だが、凛は黒子なのだからそれでいいと考えている。

秘書室は重役執務室のあるフロアの手前に配置され、整然と並んでいるどのデスクの上にもファイルスタンドが要塞のようにそびえ立ち、己の主が求める資料を即座に提供できる体勢が整っている。

その中で異彩を放っているのは、会社から支給されたノートパソコンをデコレーションし、ファイルではなく手のひらサイズのクマやうさぎのぬいぐるみを飾り、派手なクッションとメイクポーチが置かれたメルヘンな空間。

凍てついた空気をものともせず、語尾にハートをつけ、勝ち誇った声で結婚報告をする近藤芹那のデスクだ。

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