捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした
自分のことを話すのはあまり得意ではないが、進んで話す内容ではないものの特段隠したい話でもない。凛は端的に自身の状況について話した。
「うちは母子家庭で私は四人きょうだいの長女なのですが、下の三人はまだ学生なのでなにかと物入りで……。いただいているお給料のほとんどは家に入れているんです」
「父親は?」
「十年ほど前に事故で亡くなりました。母は働いていますし、もちろん父の保険などもありますが、母ひとりに負担をかけたくなくて」
「そうだったのか」
小さく頷いて納得した様子の亮介が、一瞬の思案顔のあとに尋ねる。
「今日の会食はたしか延期になったんだったな」
「えっ?」
亮介から請われて家族の話をしたものの、それ以上会話を広げるわけでもなく、相槌ひとつで終わってしまった。
もっと話がしたかったわけではないが、なんだか肩透かしを食らった気分だ。とはいえ、そんな本音は秘書の仮面の下に綺麗に隠す。
「はい。イズミ百貨店の和泉社長の秘書の方から、社長の奥様の体調が思わしくないので延期してほしいと伺っております」
唐突にスケジュールの話に移り驚いたが、凛は頭の中で手帳をめくり答えた。