夢×恋グラフィティ

「あの。真田くん、今日は本当にありがとう。たぶん、真田くんがいなかったら部活のことお母さんにずっと話せないままだったと思う」

先に口を開いたのは私。

今の素直な気持ちを笑顔で伝えた。

すると。

「いや、俺は何もしてないって。御井が自分でちゃんとお母さんに、伝えたってだけ」

そう言って、真田くんは私の目尻に残っていた涙を親指でスッと拭うと、私の顔を覗き込む。

「…ッ」

突然触れた手と、近づいた距離に思わずドキンと胸が高鳴った。

「ちょっと目、赤くなっちゃったな」

「私は大丈夫…!ちょっと泣いちゃっただけだからすぐ治るもん。そんなことより真田くんの方こそ…」

そこまで言うと私はスッと手を伸ばし、彼の赤くなっている頬に触れる。

先ほど、お母さんに叩かれた所はまだ少し熱を帯びていた。

「…御井の手、冷たくて気持ちいい」

スリッと気持ちよさそうに私の手の体温を感じる真田くん。

「…!?」

まさかの行動に私は慌てて彼の頬から手を離してしまった。 


「…もう終わり?」


名残惜しそうに私の手を見つめる彼に絶句する。


…どうしよう。今ので気づいてしまった。


胸に広がる甘い痛みに戸惑いながら私は小さく息を呑んだ。


未だドキドキと高鳴る心臓の鼓動は、きっと特別な何かを告げる合図。




私のグラフティは、まだ始まったばかりだー。


END
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