キミと掴む、第一歩。
 見られたく、ないよね。じゃないとこんなに隠れて泣いたりしない。今までわたしたちが彼の涙を見たことがなかったのは、こうして彼が人知れず涙を流していたからだ。
 決して分からないように。バレないように。


 だったらわたしがそこに踏み入るべきじゃない。知らないふりをして、見なかったことにするんだ。



ガタッ────



 どこで、つまずくことがある。ああもう、本当に神様……ひどいよ。



 誰?と視線が向いて、固まるわたし。とっさにうつむいたけれど、すぐに「史倉?」と返ってくる。

 空気の震えが、彼の心の中を表しているみたいだった。


「……ごめん、ノートとりにきて。あの、誰にも言わないから」
「史倉」
「だから安心して。わたしなんかが踏み入ったり、しないから、ね」
「史倉」


 二度、呼ばれた。焦って止まることなく喋るわたしを呼び、彼は床に視線を落とす。


「……ゆきり」


 弱い、弱い声だった。
 彼の口からは一度も聞いたことがない震え方。

 それなのに、本人はなんでもないようにへらっと笑う。まるで、そうするしか知らないみたいに。


「……瀬尾くん」


 こんなこと言ったら、キミはすごく怒るかな。
 わたしなんかに言われたくないって思うかな、思うよねきっと。
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