梨佳さん    俺あの時はもう死んでもいいと思ってました でも今は最高に幸せです

 ある初夏の夜のことだった。俺はいつものように時間が経つのも忘れて、銀色の月明かりが射しこむ自分の部屋でひとり静かに机に向かい、パソコンの画面をやるせない思いでじっと見つめていた。その液晶画面上では若い女性が俺に向かってにっこり微笑んでいたのだ。

 それは俺たち若者の間でよく鑑賞される衣服を身につけてない女性の画像…ではなく、キャンパス内の芝生の上のベンチで寛ぐきれいな女性のスナップ写真だった。もうこれまでに数え切れないほど繰り返し見ているのだが、手が届きそうで届かない片思いのもどかしさにため息の数だけが無限大に増えていた。

 俺は数年間悩み続けたこの思いを今日こそ何とかしなければと、重大な決意を持って2歳年上の姉三玖の部屋をノックした。
「は~い。」
俺の切ない気持ちとは真逆ののんびりした返事が返ってきた。
「三玖姉、一生のお願いだ。聞いてくれ!」
「なんだよ、騒々しいな。ホラー映画を見てひとりでおしっこに行けなくなったってのかぃ? 」
三玖はベッドに寝転んで見ていたファッション雑誌から鬱陶しそうな顔を俺の方に向けた。
「バカなこと言ってんじゃないよ。俺は真剣なんだ。」
「ほぅ、じゃ何さ?」
三玖は全く関心なさそうに雑誌にまた眼を戻しながら言った。

 俺は勢いで続けた。
「梨佳さんとデートしたいんだ。何とかしてよ。」
「なんだって?! それこそバカなことじゃないか、無理!!」
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