絶縁されたので婚約解消するはずが、溺甘御曹司さまが逃してくれません

「ああ、そうだ。午後二時になったら、本館一階のプライベートサロンに向かってくれるか?」
「? なにかあるんですか……?」

 食後のコーヒーを味わいながら新聞を読んでいた玲良が、ふと顔を上げて思い出したように提案してくる。

 前日までグラン・ヴィリオ・エンパイアホテル東京に宿泊する予定はなかったし、ホテルで催されるイベントやパーティーに出席する予定もない絢子だ。ならばなぜ? と首を傾げると、絢子の顔を一瞥した玲良がそっと微笑む。

凛花(りんか)が手配した百貨店の外商が、絢子に合いそうな服をいくつか見繕って持ってくる予定だ。そこから好きなものを好きなだけ選んでくれ。もちろん支払いは俺が持つ」
「!?」

 突然の申し出に驚くあまりダイニングチェアから転がり落ちそうになる。

 凛花というのは、彼の五つ下の妹・獅子堂凛花のことで、当然彼女も獅子堂財閥グループのご令嬢である。現在大学院に通う凛花は、一つ年下で兄の婚約者である絢子のことを『絢ちゃん』と呼んで親しげに接してくれる、可愛らしくて気さくな女性だ。

 その凛花が身一つで桜城家を追い出された絢子のために、自身が贔屓にしている百貨店の外商に話をつけ、このホテルに服や靴を運んできてくれるという。

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