絶縁されたので婚約解消するはずが、溺甘御曹司さまが逃してくれません
今の絢子に、匠一と向き合ってちゃんと話がしたい、という気持ちはない。なのに突然、匠一が絢子の目の前に現れた。
「どうして……?」
以前設定したGPS情報を送受信するアプリは、玲良の提案を受けて導入したもの。よって匠一にも燈子にも特にその存在を伝えていなかったが、ならななぜ匠一は絢子の居場所がわかったのだろうか。仮に位置情報を取得するにしても、スマートフォンの電源はほとんどオフにしているのに。
「このホテルで絢子の姿を見かけたと、複数の証言があった」
「!」
絢子の疑問に答えてくれる気になったのか、匠一がぽつりとそう零した。その答えを聞いた瞬間、絢子の全身からサッと血の気が引いていった。
「忌々しいことに、フロントに聞いても宿泊客の個人情報は教えられないと一点張りだ。だから探偵を雇って、ここにいる証拠を自分で集めた」
匠一の説明に思わず絶句してしまう。
当たり前だ。ホテル側が宿泊客の個人情報を漏洩するはずがない。もちろん獅子堂財閥が経営するホテルが信用問題に関わる杜撰な管理をするはずがないが、絢子の姿を直接見た者がいるのなら位置情報は関係ないし、ホテル側にも落ち度はない。