聖騎士さまに、愛のない婚姻を捧げられています!
四頭立ての清楚な白い馬車に乗り込んだ新郎新婦は聖堂のある街を抜け、豊かな田園地帯を走っていく。
今日は一日中白いヴェールを被っていたリリシアはようやく、グリンデル領へ向かう馬車のなかで夫となった青年とまともに向き合うことができたのだ。
セヴィリス・デインハルトはセーラたちの言う通り、美しい青年だった。首すじに添うくらいの少し長めの金髪は蜂蜜のように艶があり、緑の瞳をより引き立てている。
目鼻立ちは完璧に整っていて、目元にあるぽつんとしたほくろが妖艶さを漂わせる。長いまつ毛に縁取られた瞳は謎めいていて心の底まで見透かされそうだ。吸い込まれそうな彼の瞳にドギマギしながら、リリシアは頭を下げた。
「リ、リリシアです。よろしくお願いします……」
緊張で頬が引き攣る。それでもリリシアは微笑もうとした。
「セヴィリス・デインハルトだ。よろしくね」
彼は穏やかな声で返してくれた。そして、にっこりと笑ったかと思うとすぐに馬車の外へ顔を向けてしまったのだ。小窓に肘をついて頬に手を当ててしまって表情がよく見えない。
でも、形の良い耳が赤く染まっている。
もしかして、照れているのだろうか。リリシアは自分までなぜか恥ずかしくなってしまい下を向いて俯きかけた。
だがそのとき、ふっと記憶が蘇る。
(この方のお声……聞き覚えがあるわ)