聖騎士さまに、愛のない婚姻を捧げられています!

「奥様、今日はセヴィリス様の公務で、グリンデルの街や村の首長との会合があります。ご挨拶の席でのお召し物はなにがよろしいですか?」

 今朝もサラはうきうきとそう尋ねてきた。

「あの、私は……なんでも大丈夫。本当にありがとう」
「夜には広間でリュートの演奏会がありますから、それに合わせたドレスが……、……リリシア様……もしかしてお疲れですか? 印が痛むのでしたらすぐにセヴィリス様にお伝えします。早くお休みに……」
「いえ、平気です。元気よ」

「さ、ようでございますか……では、お召し物は私がお見立てさせていただきますね」

 サラはすこし残念そうに肩を落として、ドレスを選びに向かった。
 リリシアはほっと息をついて彼女を見送る。

 サラを始め、家令のアンドルや使用人は皆、リリシアをとても大切に扱ってくれる。魔印のことも知っているようだった。

普通ならそんな不気味なものを持つ者の世話などしたくないだろうに、皆気遣いに溢れた態度で彼女に接してくれた。ありがたさと申し訳なさで、リリシアはその度に胸がいっぱいになってしまう。

(形だけの妻なのに、みなさんは……)

 そして、夫であるセヴィリス・デインハルトは。

 すらりと背の高い夫は歩く姿勢も凛としていて、回廊のはるか遠くからでもすぐに彼とわかる。日中は館のなかでセヴィリスを見かけることは滅多になかったが、彼は朝の挨拶で必ず彼女の体調を確かめてきた。

「顔色はとてもいいね」

 リリシアの顔を覗き込み、満足げに頷くとまたどこかへ去ってしまう。そして、在宅中は夕食時になると広い食堂へ現れるのだ。
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