聖騎士さまに、愛のない婚姻を捧げられています!

 アンドルは自信ありげに頷く。

「そ、れは……でも、私は、そうではないの。魔印のこと、ご存知でしょう?私とあの方はなにも……」

 彼はにこやかに微笑んでそれには答えなかった。代わりにこう言ったのだ。

「セヴィリス様から伺っております。貴女は少年を守るために魔印に侵されたと。あのような獣に向かっていくなど、それも血の繋がりもない者のために……」

 彼は真面目な顔つきになった。
「私たちは皆、魔のものの容赦のない恐ろしさを肌で知っております。ですからたとえ旦那様の奥方でなくとも私どもは、心の底から、人としての貴女様を尊敬し、歓迎いたしておりますよ」

 アンドルは瞳に力を込めて、リリシアに腰を折り頭を下げた。見ると、いつのまにか周りの皆も彼女に笑顔で礼をする。そこには嘘偽りのない素直な気持ちが滲んでいた。

「……あ、……」

 知らないうちに、涙がぽろぽろと落ちてくる。こんなふうに言われるなど、思ってもみなかった。

「あ、りがとう……」

 リリシアは顔を歪ませて嗚咽をこらえようとした。泣き顔がみっともないと笑われ続けてきたので、隠すためにじっと俯く。

「ま、まぁっ!奥様が!」

 サラが小さく叫んで駆け寄ってくる。皆口々に、「お茶をお飲みになって」とか「焼き菓子をどうぞ。甘くて落ち着きますから」とか、わいわいと彼女を取り囲んだ。
「ご、めんなさい。泣いたりして。ありがとうございます、みなさん」

 春のあたたかな風が木々を楽しげに揺らす。青々とした草地を皆の楽しげな声が流れる。

 泣き笑いして幸せそうな妻の様子をそっと見守っていたセヴィリス・デインハルトは知らず微笑を浮かべ、館の向こうへと消えていった。
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