【古のシャータの実】白銀に消えたノラの足跡とイサイアスに立ちはだかる白い民の秘されし術 ~母の教えを信じ続けた少女が 最後に幸せをつかむサクセスストーリー~ノラ・ジョイと五つの口伝シリーズ2
季節の終
故郷ホルン村から、遠く離れた町コルネット。
三年前みなしごだった田舎娘ノラは、娘盛りの十七歳。
今は、ユーフォニアム国王都からほど近いこの町の中でも優美で名高い、レノ侯爵邸にいる。
季節に関して言えば、あいにく、これから先の彩りは失われる一方だ。
邸宅自慢の円形庭園では、秋の花が終わり、虫も姿はなく、鳥の鳴き声も聞こえない。落葉と枝の間を通り抜ける風は冷たく、白っぽい空の色が冬の訪れを感じさせた。
十五歳になるノラの腹違いの弟、アルロは冬という季節を愛している。スケートや雪滑りが好きだし、冬の暖炉の火や、しんしんと積もる雪の夜も好きだ。なにより、この冬一番楽しみにしていたことは、年の瀬を家族四人で過ごすことだった。
暖炉の前にキルトを広げ、皿には甘いパンとハーブのきいたビスケットを山盛りにし、マシュマロを焼いて、ホットワインをすすり、夜更けまで長話やゲームをして過ごすのを、それは心待ちにしていたのだ。
数奇な運命をたどり、ようやく出生が明かになった愛する姉ノラが、家族の一員となった、初めての冬。それはもう、もれなく楽しい時間になるに違いなかった。
(それなのに……)