二人の歩幅が揃うまで
* * *

 最寄りの駅に着いたのは10時50分を過ぎた頃だった。ホームの階段を降り、改札を出ようと歩き出した先にいたのは、外では見かけることがない彼だった。

「え、健人くん…?」

 改札を出て、まっすぐ健人のほうに向かう。綾乃にすぐ気付いた健人も、まっすぐ綾乃のほうに向かってきた。

「綾乃さん!おかえりなさい!お仕事、お疲れ様でした。」
「えっ、な、なんで…。」
「オーナーが迎えに行きなさいって言ってくれたので、抜けさせてもらいました。」
「とても気を遣わせてしまっている気がする…申し訳ないです。」
「いえいえ。夜道は危ないですし。それよりも、お疲れのところ、僕のわがままに付き合ってもらっていることのほうが申し訳ないですから。」
「あっ!そ、そうだ…お誕生日おめでとうございます。」

 本当はこんなに汗だくになりながら言うつもりはなかった。化粧は多分崩れているだろうし、まさかここで本人に会うとは思っていなかったため、微妙に焦ってもいる。今日はつくづく、予定通りには何一ついかない日だ。それでも、見上げた先の表情がわかりやすく嬉しそうだったため、綾乃も安堵する。

「…ありがとうございます。電話でも充分驚いたし、嬉しかったんですけど…。直接言ってもらえるのは別格ですね。」
「…汗だくでごめんなさい。しかもプレゼントは今手元にないんです。本当はケーキを買って差し入れしようとも思っていたのに…。全部できなかったから白状しますけど…。」
「…嬉しいです、全部。ありがとうございます。」

 街灯の明かりが、赤く染まった健人の耳を照らした。
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