二人の歩幅が揃うまで
「お決まりですか?」
「あの、量はどのくらいですか?」
「お仕事帰りの女性のお客様は大体ぺろりと食べてしまうくらいなので、とても多い感じではないかと思います。」
「あ、じゃあ食べれそうです。この今日のおすすめのパスタセットでお願いします。」
「ドリンクはどうされますか?」
「アイスティーでお願いします。」
「かしこまりました。他にご注文はございますか?」
「大丈夫です。」
「では、ドリンク、すぐお持ちしますね。」

 小さく頭を下げると、また髪が揺れた。柔らかい雰囲気に心がほっとする。
 新入社員の綾乃は、大した仕事をしているわけではもちろんない。説明に次ぐ説明、覚えるべきことをメモしたり、同期と挨拶をしたりしているだけだ。大学は近場に住んでいたこともあり、徒歩もしくは自転車で通っていたが、今は人生初の電車通勤である。これが思っていた以上に苦痛で、慣れない環境も相まって、意外と消耗させられてしまっていた。自分で決めて、就活をした結果ではあるものの、これが正しいのか、自分に合っているのかなどもまだ全然わからない。
 家事も大学生のころから適当にしてはきたけれど、4月に入ってからは大した料理も作れなくなっていた。土日は何となくだるくてベッドから起き上がるのに時間がかかってしまうし、自分のためだけに何か一品作る気には全然なれなかった。

「アイスティーでございます。」
「ありがとうございます。」

 紺色のコースターの上に置かれたアイスティーの中の氷が、カランと音を立てた。
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