リヴィ・スノウはやわらかな嘘をつく

 どーんという地響きと共に、窓の外が昼間のように明るくなる。リヴィ・スノウは髪を梳く手を止めて、窓辺へ近づいた。空いっぱいに白い花火がいくつもあがって、そのたびに家々の屋根や彼女の白い頬を照らす。


 小さな街は今夜も勝利の美酒に酔っていた。数日前に西の土地を荒らす魔物を騎士団が一掃したのだ。街の酒場では人々が連日酒宴を繰り広げては久しぶりの平和を謳歌している。リヴィは色鮮やかな花火を眺めながらも、少し浮かない顔だ。

(今夜も、あの方からご依頼がなかった……)

 ため息をつき、櫛をしまうと寝台へ向かう。その時、下の階の玄関で呼び鈴が鳴った。

リヴィは慌てて夜着の上からストールを羽織り階段を駆け下りた。

もしかして、と期待しつつ扉の向こうへ「どちらさま?」と声をかける。

「使いを頼まれた。これを」

 男の声だ。そして、扉の隙間から小さなカードが差し込まれる。リヴィは胸の高まりを覚えながらそれを受け取った。
『今夜も、治癒をお願いしたい。アルベルト・レインス』

 美しく力強い筆跡に彼女は思わず目を閉じ、胸にカードを抱きしめた。嬉しい。待ちに待ったあの方からのメッセージだったから。
「すぐ準備します。少しだけお待ちになってくださいませ」
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