幼馴染二人の遠回りの恋
覚悟


━━━夕方


決意を込めて鎧を纏うように黒いスーツを着た


リビングに現れた風馬も同じように黒いスーツを着ていた


てっきり一緒に行くとばかり思っていたのに、風馬に玄関で抱きしめられて固まった


「お願い、棗」


どうやら風馬は私を此処に置いて行きたいらしい


「なんで?」


「引導を渡すのは俺だけで良いよ
棗は俺を信じて待っていて欲しい」


一緒に行きたい気持ちしかないのに

顔の半分を覆っていた前髪が無くなっただけで、風馬の表情は手に取るように分かるから

真剣な目を見る限り、どれだけお願いしたところで、一緒に行ける確率はゼロだろう

いつになく強く訴えてくる眼差しは、私の頭を過ぎる心配事を和らげるけれど


異星人じゃないかと疑ってしまうほど“普通”の通じない金村茉莉乃と父親が納得するだろうか?


拭えない不安を察知したのか


「棗は秘書だけど俺の大切な人でもあるんだ」


だから、と区切った風馬は
「俺に守らせて」と言い切った


「・・・分かった」


私の心配は風馬が帰って来るまで続くけど


なにより風馬を信じたい


「頼りない俺だけど。棗のことは俺が一生守り続ける」


「ありがとう風馬」


「じゃあ。行ってくる」


「待ってるね」


「あぁ」



きっとこれまで以上に頑張るはずだから敢えて“頑張れ”は言わない


もう一度ギュッと抱きしめて離れた風馬は、チュとリップ音を立ててオデコにキスをすると背中を向けた


「いってらっしゃい」


「いってきます」


火打石でも擦る勢いで大きな背中を見送る


駆け出したい気持ちを抑えながら

直接言わなかった“頑張れ”のエールを送り続ける私は

玄関扉が閉まった後も動けなかった




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