幼馴染二人の遠回りの恋



「捻挫は完治してるって」


「良かった」


「そもそも挫いてなかったかもしれないな」


「それでも。良かったよ」


「だな」


これで漸く嫌なことに線引きをして前を向ける

風馬は大変だったと思うけれど、ずっと燻ったままの私の胸は綺麗に晴れた


「とりあえず、コレ。見せに行こう」


「うん」


金村茉莉乃から渡された写真をフロントに持って行く


いつものように笑顔でお辞儀をするコンシェルジュの大野さんに手渡した


中身を取り出した途端
「これは」


いつも冷静な大野さんの顔が一瞬で強張り、息を呑んで固まってしまった


「部外者による盗撮です」


「部外者とは」


「住民でもない人物にコレを使って脅されまして」


「脅されたって。飛田様
警察へは届け出ましたか?」


「それはこれからです」


「例え住民であったとしても、これは明らかに盗撮を目的とした住居侵入になります
セキュリティを掻い潜られた此方としても然るべき対応を取ることになります」


「それは心強いですね」


「それでは、こちらの写真を・・・」


そこからの話の展開が早過ぎて、風馬と手を繋いでいるだけで精一杯だった



◇◇◇


金村親子がたちまち窮地に立たされるのは自業自得に思えるけれど


Gライン本社と小売店で働いている社員さん達を思えば心苦しくもある


風馬は金村茉莉乃が罪になるかどうかは別として
もう二度と関わって欲しくないから敢えて強い態度を貫いていくそうだ



「棗、行こう」


「うん」


警察署へ向けて歩き始めた風馬を見上げる


「ん?」


「ううん」


視線を合わせるたび気分が重かった日々がようやく終わる


「改めて、今日をスタートにしよう」


吹っ切れたみたいに前を向く風馬の横顔には強い意志が見える


それは・・・


経営者としての強い思いと


金村茉莉乃を許さないという強い姿勢と覚悟だった



















< 52 / 58 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop