本の虫は恋煩う。




 少し(うつむ)きながら廊下を歩いていたら、同じ1年のバッチをつけた女子生徒2人とすれ違った。

「ねぇ、うちのクラスに弥上(みかみ)さんっていう女の子いるの知ってた?」
「え、そうなの?見たことない」
「不登校らしいよ」

 会話の中に自分の名前が出ていて思わずビクッとしてしまう。
 危うく抱えていた本を落としてしまうところだった。
 幸い、その子達には気づかれなかったようだけれど、通り過ぎた後心臓がバクバク鳴っていた。
 ほんの数秒会話を聞いただけなのに、ぶわっと冷や汗が出ていた。

 まさか自分の噂をされているとは思わなかったから。
 私って昔から空気みたいなものだったし。
 そう思うとなんだか虚しくなって、ギュッと本を抱きしめる。

 それから、噂話を聞いたことで周りの目が酷く気になってきて、早く保健室にいこう、と早足になった。

 先程の会話でもあった通り、私の名前は弥上(ミカミ)世那(セナ)
 現在保健室登校をしている女子中学生である。


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