本の虫は恋煩う。



「は?彼女とかじゃないわけ?」
『い、いえ、違いますね』
「嘘でしょ、じゃあアイツのあの浮かれぶりは何なの…?」

 私の解答に美少女はブツブツ言い出してしまった。
 逆にこの人は君の何なのだろう?

『彼女さん、ですか?』

 浮気疑惑を掛けられていたなら申し訳ない。
 私と彼はあくまで友人だし。

「違うわよ!
 私はアイツの幼馴染み。
 あんな重いやつ此方から願い下げよ」
『重い?』

何が?と首を傾げると、「世の中には知らないほうが良いことがあるのよ」と言われ教えてもらえなかった。

「アイツが妙に最近機嫌がいいから変に思ってたのよ。
 もし誰かが餌食にされかけているなら放っておけないと思って」

 勘違いしてごめんなさいね、と謝り頬を掻くさん。
 怖い人かと思ったら良い人だった件…。
 でも、流石に餌食(えじき)って言葉は良いすぎなのでは…?

『…構いませんよ』

 反論の言葉を飲み込んで、一言だけ返した。
 するとさんは身を乗り出して言った。
 少し距離が近くて後ろに数歩下がる。

「私、野山絵茉っていうんだけど。
 アナタ、名前は?」
『え、弥上ゆきですけど…』
「ゆきね、よろしく!」
『え、あ、はい』

 わぁ、君同様強引に攻めてくるな。
 気がついたら頷いてしまっていた。

 野山さんは少し悪戯(いたずら)に微笑んで「じゃあね」と手を振り教室を出ていった。
 ハキハキとしていてカラッとした明るい性格。
 まるで太陽みたいで。
 それでいて、嵐みたいな人だった。

 何はともあれ、私は友人をまた一人得ることになったのだった。



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