好きとは言わない誓約です

マナと呼びたい

それから五つのポイントを周り宿舎に戻ると、私たちの班(と甲斐たちの班)がぶっちぎりの一番だった。


「歴代の最速なんだが」

と先生たちがちょっと引いていた。

ピアスたちがマナに怒られてから、集団がなんとなく気まずく、めちゃくちゃ早足で進んだのも最高記録達成の要因かも。







戻った班からお風呂に入れとの指示で、私たちはそれぞれの部屋へ戻る。


クルミちゃんはあまり機嫌が良くないのか、マナたちと別れると一人でさっさと部屋へ戻ってしまった。


「さっき、風間くんかっこよかったね」

宿舎の二階へ向かっていると、松本さんがこそっと言った。


「ね。びっくり」と、私は少し顔を赤くした。


「あの後、たくさん話せた?」


「うーうん、すぐに鉄壁ガードがマークに来てダメでした」


トホホ、と私は情けない顔をして、松本さんは「ドンマイだよ!」と言った。


そしてもうすぐ女子部屋だと言うところで、後ろから甲斐に呼び止められた。

「菜月!」


私と松本さんが止まると、甲斐は俊足で追いつく。


「ごめん、さっきうちの班の奴らが絡んだんだって?」


「あーうん。大丈夫」


「わりーな。今丹田から聞いて。あいつらシメとくわ」


「いや、もういいよ。仲良くしてね」


「ほんとワリーな。でも根っから悪い奴らではないんだわ。林間学校でハメ外しすぎっつーか」


甲斐はあの後もずっと集団から離れてトボトボ付いて来ていた。


とりあえず、もういつもの調子に戻ったようで安心した。


「うんうん。楽しくなっちゃうよね。ちゃんと謝ってくれたしホントもういい。じゃ、私たちお風呂行って来まーす」


甲斐に手を振って歩き出す。


「あ……菜月」


私は「うん?」と振り返る。甲斐は何か言いたげに目を泳がせていた。


「分かった分かった。夜の自由時間にでも話そう」

と言って、私は今度こそじゃーね、と手を振って女子部屋へ入った。


でも先に戻ったはずのクルミちゃんがいない。一体どこに行ったのやら。


私と松本さんは大浴場でお風呂を済ませ、部屋でのんびりしているとようやくパラパラと他の班が戻ってきた。

最後の方に帰ってきたミナミは、半分魂が抜けていて笑った。





夕食は一階の大食堂でみんなで食べた。マナが食事している姿を、私は遠くからまた盗み見。


この後は七時から九時まで勉強集会とのこと。


「半日山登りさせてさ、その後二時間みっちり勉強って、なにこの鬼合宿」


ミナミは相変わらずギャーギャーと文句を言い、クラスの子たちに引きずられながら集会室へ。


勉強集会免除の私たちは、先生の指示でスポーツ館に集められて、この中で二時間自由に過ごして良し。と言われた。

部屋の鍵まで全員先生に預けさせるという。


「あー、個室で悪さがあっちゃいけないもんね」

と、丹田くんが爽やかに笑っていた。あ、そういうことなの? と私は納得した。


「トランプ持ってきたんだけどやらない?」

丹田くんの提案で、私たちの班はステージの上で丸くなって大貧民を始めた。


「じゃあさ、大富豪が大貧民の人の罰ゲーム決めようよ」

と、クルミちゃんが言い出した。


え、なにその制度。トミーとかそういうノリ苦手そうだけどな。
とちょっと心配していると、「承知した」と言ってトミーは眼鏡をクイっとな。意外とノリノリ。

トランプの鬼みたいな顔してるしな。いや知らんけどさ。


そして私はようやくちゃんとマナの私服を正面から見られた。

アディダスのセットアップのヴィンテージっぽいジャージを着こなしていらっしゃる。


はーカッコイイ。と、私はトランプの最中もマナを何度も盗み見。


ちなみに私はというと、先日甲斐の前でした胸パッカーンの失敗で学び、今日はロンTにショートパンツ。

これで流石にポロリはあるまい。


と思ったら、マナの隣に座るクルミちゃんは、甘々なオフショルのミニワンピにレギンス。

エロいなおい。(オヤジ目線)


私ももう少し頑張ればよかったかな。と手持ちのトランプを見ながらしょんぼりしていると、「はい上がりー」と丹田くんが最後の持ち札を捨てた。


見ると私以外はみんな持ち札がないような。


「はい、持田さん大貧民。罰ゲームだよ」

丹田くんが心から嬉しそうに言った。


イエーイとクルミちゃんがノる。


ぶー。やってしまった。


そんでトミーが大富豪とのこと。

始まる前トミーの心配をしそうになった自分を殴りたい。
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