魔法の手~上司の彼には大きな秘密がありました!身も心も癒されたい~
私の脳内の語りが悪かったと思う。

ここは藤乃屋(ふじのや)と言う自宅近くのほぐし屋さん。
整体と聞くとお堅いイメージだけど店内はアジアンテイストの家具でまとめられ間接照明の柔らかい光。
毎日変えてるらしいアロマの香りが癒しを与えてくれて女性のみならず男性客も来店するらしい。

「お前が悪いだろ」

「私のせいだって言うの?」

「他に居ないだろ」

痛かった…

「腕落ちたん…」
「次はもっと痛くする」

「いや〜」

フレームレスの外したメガネを受取り目元をハンカチで拭った。

ベッドから起き上がり白衣の彼に視線で“痛かった”アピールをして軽くなった腕をブンと回す。

「仕事、無理しすぎなんだよ」

パソコンから目を離し私に苦笑いを向ける医院長の孫で職場の上司でもある藤堂 陸(とうどうりく)は保険証をカウンターに置いた。

「自分ではそんなつもり無いけどな…。今日も要らないの?」

「俺が貰ったら副業だろ」

苦笑いをして受け取らない。
大(おお)先生が忙しい時のみのプレミアムな時間。

特別感満載の一時間を過ごしボロボロの私の身体をメンテナンスしてくれる大切な人…で

ーー好きな人

口が裂けても本人に言えない。
左手薬指に光る指輪。

誰にも言わなければ思うくらい良くない?
巷(ちまた)でよく言うイケメン上司の彼。
恋心くらいは許されるよね?

「じいさんがこの時間まで居るわけない」

時計は23時を回ってる。

「じゃあ今度、大先生が好きな和菓子持ってくる」

「あぁ、そうしてやってよ。それ一番喜ぶから」

マウスをカチカチと動かして、

「予約来週にしとく?」

来週は誕生日。
28歳の記念すべき日をイケメンに施術して貰いたいのは山々だが…

「来週は予定があるので。再来週でお願いします」

また変なプライドで予定も無いのにあたかも“私は忙しい”アピールをしてしまった。

「了解」

可愛いスキルは使えないのに有りもしないプライド高スキルは使えるらしい。

「健康管理も怠らないように」

「分かってます」

心配してくれてるのにいつものように冷たく言ってしまった言葉に帰ったら落ち込むのは分かってる。

可愛く微笑めたら良いけど私のスキルでは無理な話で身体は軽くなるのに心は重くなる。

180cmはあるだろう高い身長を少し屈め160cmの私に目線を合わせ微笑んだ。

「よろしい」

切れ長の瞳と薄い唇に笑みを浮かべる姿はどんどん私を虜にする。

(これが標準装備なんだからタチが悪い…)

前髪が邪魔だったのか指先で軽くかきあげる姿がカッコよすぎて破壊力が半端ない。

「ありがとうございました」

「気をつけて帰れよ」

彼に頭を下げてくるりと振り返り安堵した。

だって顔が熱い。
絶対これ赤くなってる。
暗くて顔が赤いのはバレてないと思うけど…

「次は大先生の居る時間にしよう」

大学時代に整体の資格は取ったと言う彼の施術は一流だが何とも気持ちがもたない。

火照った顔に手をあてつつ高めのヒールに手こずりながら約500m程の距離を壁伝いになんとか歩きマンションに辿り着いた。
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