甘やかで優しい毒〜独占欲強めな彼に沼る

すぐに離れたが、菜々緒の顔色は先ほどと違い血色もよくなってホッとする。

彼女は、何も言わないから、こちらからも聞けない。

向こうに彼女の表情を曇らせる原因があるのだ。わかっていても、問題行動があるわけではないので、今は、何もしてやれない。

「後、少し頑張ってこい。まぁ、あの若林って男が何かしてくるようなら、俺にちゃんと報告な。わかったな」

念押ししたら、顔を真っ赤にさせて頷く。

よしよしと、頭を撫で勇気づけるしかできないのが、もどかしい。

「運転、気をつけて行って来い」

顔を真っ赤にさせたまま、コクコクと頷く姿に、また、手を伸ばして抱きしめてしまいそうで、ポケットに両手を突っ込んで、そそくさとその場を離れた。

玄関の角の壁に寄りかかり腕を組んで、車が出ていくのを見送ろうと待つが、なかなか出て行かない。

5分ほど経って、やっと、車が出て行き見送った俺は、職場に戻ったのだ。

「おかえりなさい。遅かったですね。何、吸ってきたんですか?」

沢内が、俺の手のひらに、タバコの箱を渡して、唇を指差してニヤつく。

あー、クソ。
失敗した。

こいつが、途中入社してきた際、嫌な予感しかなかった。
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