14年目のクリスマス
「食器も私が洗うからパパはゆっくりしてて!」
という言葉を残し、サキはキッチンに消えていった。
と言われても…
食事も終わり、本も満足するまで読み進めたので、手持ち無沙汰になる。
ふと目に入るレコードの数々。
祖父が好んで集めていたコレクションの中から一枚ぬき取り、レコーダーにかける。
海外ジャズだ。
年代ものだから、夜景をイメージされるような艶めいた音楽ではない。
だが、アメリカの田舎の情景を思い起こさせるような、
どこか落ち着いた
それでいて心に響く旋律。
今の時代、誰しもが
”忘れてしまいがちな何か”を思い出させるようなメロディー。
”忘れてしまいがちな何か”
─…人間の暖かさ…─
どこまでも優しい音楽が、部屋の中をそっと包み込む。
壁にかけられた振り子時計の、時を刻む音。
ストーブから聞こえる火が弾け飛ぶ音。
窓辺から雪の降る気配。
それらがメロディーに交わる。
この穏やかな空気にただ身を任せ、グラスを傾ける。
喉にシャンパンの泡が、
静かに落ちていく。
手に持った緑色のグラスを、ギュッと握り締める。
「…今まで来れなくてごめん。
勇気がなかったんだ…。
ここは君との思い出が多すぎたから…」
君との始まり
初めてのキス
肌を重ね合わせた夜
初めて見た君の寝顔
僕達の始まりはいつも此処だった─…。
「14年もかかって…
きっと君は呆れてるんだろうな…」
テーブルの上に置かれたままの赤いグラスから
1つ、雫が落ちた─…。