十歳の子供を保護したので、死ぬまで面倒を見ることにした

 これは都内にあるアパートで一人暮らしをしている俺だからこそ躊躇わずにできた選択だ。

 俺の母親はド真面目で、「首をつっこむなら途中で突っ込むのをやめることだけは絶対にやめなさい。助けられた人は、最後まで救いを求めようとしてしまうから。裏切られたら、ずっとそのことを覚えてしまうから」とよく口にしていた。そんな母親に拾ったことを話したら、きっと「最期までその子を助けられるの? 違うでしょう! それなら今すぐ一緒にいるのをやめさない」と言われていた。
 母さんのその言い分が正しいと思わないわけじゃない。けれど、俺にはいつか助けられなくなる確信もないのに、見捨てることなんてできない。そう思ったから、あえて母さんがいない場所で俺はこの子を拾った。

「お兄ちゃん」
 肩車をしたら陰部に触れてしまうから手を繋いで家に向かって歩いていたら、そう声をかけられた。

「お兄ちゃんじゃなくて真逢《シンア》な。秋風《あきかぜ》真逢」

「真にい、パパとママは?」
 にいとは呼ぶのか。

「いない。俺もお前と一緒。独りぼっちなんだよ」
 仲間意識を持ってほしくて、あえて嘘をついた。

「そうなの?」
「ああ。なあ、名前俺が決めてもいいか?」
「うん」

 何がいいのだろう。

 ひどい環境にいたのだろうから、名前くらいは、かつての環境とは似つかないほど希望に満ち溢れているものにしたい。

「……喜津愛(きづめ)

「き……づめ?」

 溢れるほどの喜びと愛を与えられる子になるように、という意味だ。

「ああ。嫌か?」

「ううん! ありがとう真にい!」


 俺が頭を撫でると、喜津愛は嬉しそうに口角を上げた。

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