冷酷な狼皇帝の契約花嫁 ~「お前は家族じゃない」と捨てられた令嬢が、獣人国で愛されて幸せになるまで~
序章 最強にしてたった一人の狼皇帝
 獣人皇国では、〝運命〟という言葉がよく使われる。
 七年前に自ら選ぶようにして、母と同じように他界していった最後の家族だった兄。
 そして――カイルは軍人から、皇帝となった。
『孤高の狼皇帝』
『新しい皇帝は冷酷で恐ろしい……』
 なんと言われようが自分はこの皇国を守る。
 それが獣人族の最強であると民に期待された皇族の義務。
 それでいてカイルは、兄の望む平和な皇国を守るのだ。
 だが、皇国の“運命”だとか“つがうべくして生まれた相手がいる”だとか、そんな迷信は信じられない。
 いや、信じたくない。
 兄は出会ってもいなかった伴侶のために、カイルを置いて逝ってしまった。
 その悲しみが癒えないからこそ、彼の理性は運命を否定する。

 これが兄の導きだったのかは、知らない。
 カイルの軍人時代の直属部隊の部下であり、現在は皇帝の護衛部隊であるギルクたちを連れて移動していたところ、ふと、兄の顔が浮かんだ。
 兄の領地の方角へ顔を向けた時、行かなければ、となぜだか思わされた。
 狼の直感、それに従って間違ったことはなかった。
 カイルは部隊の進行方向を、兄の領地へと向けるよう手で指揮を執った。

 そこに、彼の心の傷も、孤高であることへの寂しさも薄めさせてくれるような異種族との出会いが待っているとは、この時は思ってもいなかった。
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