ホテル ポラリス  彼女と彼とそのカレシ?

2 『玲丞、どこにいるか知らんか?』

窓の外には大都会の夕景。
エグゼクティブチェアにもたれ、東京タワーをぼんやりと見つめる倫太郎の横顔には、どこか憂いが漂っていた。

「あー……マジ、退屈」

社長なんて、つまらない。肩書きだけは派手だけど、実態はハンコ押しと会議のルーティーン。
幹部たちは親会社の会長、つまり親父の顔色ばかり気にしているし、社員たちは御曹司(・・・)の自分とはどこか距離を取ろうとする。──孤独な職業でもある。

──なんかこう、ドカンと面白い事件でも起こらないかなぁ。去年の夏みたいに。

あれは最高に楽しかった。
……でもあれ以来、玲丞からは微妙な距離を取られている。

──仕方ないじゃん。親父の命令は絶対だし、その親父はセンセイの忠犬なんだから。恨むなら、自分の父親を恨めよ。

しかし、仕事だったとはいえ、後味は悪い。

だから──玲丞のご機嫌を取ろうと、オーベルジュの件も後押ししてやった。
……タカから「お前は余計なことをするな」と叱られたけど。――あの人、昔から玲丞だけに甘いんだよな。

多恵のことも探している。
……フェルカドのスタッフを脅しても「知らぬ、存ぜぬ」の一点張り。密偵からの報告も梨の礫だけど。

──やっぱ、鍵は多恵だよなぁ。

思い出すのは、二週間前。
突然、玲丞に連れ出されて、麻里奈の墓前でみっちり説教された。

子どもの頃は、玲丞と麻里奈の後を金魚のフンみたいにくっついて回ってた。
転べば手を貸してくれたし、慶丞にいじめられたときも、玲丞が必ず庇ってくれた。
大人になってからだって、いつだって助けてくれた。

それなのに──
「これからは、自分の言動には自分で責任を持て」
「いつまでも逃げてないで、薫子にきちんと愛を伝えて、いい家庭を築け」
なんて言われても、冗談だろって感じ。

──いやいやいや、墓前でそんな真面目な話する? 空気、重すぎだろ。
だいたい、いまさら薫子にって……、「あなたみたいな変態はいやです」とか言われたらどうすんの。

だけど、まるで別れの挨拶みたいに、あまりにシリアストーンで迫るから、思わず麻里奈に誓っちゃったよね。軽はずみに。

──うーん、さすがに今、合コンはまずいか?

あれでいて、玲丞は怒らすと怖い。センセイ譲りの静かな恫喝は、親父よりも、慶丞よりも、ずっと恐ろしい。

そのとき、スマホにメールの着信。
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