こじらせハイスペ御曹司に、プロポーズ(!?)されました

6話 私とアイツ、お互いの気持ち

〇車内
5話でレストランを出た後。
游が、車に乗り込む。
松本「お嬢様は」
游「お母さまに、電話をかけるそうです」
游「うちのメイドが面倒を見ていると伝えたんですが、心配らしくて」

車外、少し離れたところでスマホに耳を当てる咲良を見る游。
咲良の声が少し聞こえる。
咲良「たけるも楽しそうにしてる? そっかー、よかった!」

松本「デートは、楽しんでいらっしゃいますか?」
そう聞かれて、游が少し肩を落とす。
游「……うーん」
游「楽しんでいるとは思います」
游「ですが、何かが足りない気が……」

松本「足りない、とは?」
游「何かまだ、必要なものがあるんじゃないかと」
松本、悩む游を見て親目線で微笑む。
松本(少し、成長なさったようですね……)

松本「游さまには、圧倒的に足りてないものがあります」
游「え……」
游「なんですか? 教えてください」
松本「……それは、ご自分でお考えください」
游「!」
松本「ご自分で考え、気づくこと。それが、夫婦としての第一歩だと思いますから」
游「……」
素直な顔で、松本の言うことを聞いている游。

〇高層ビルの最上階(夕方)
夕焼けが広がる街並みが一望できる最上階。
デートの続きで、そこを歩いている咲良と游。
一面の窓からは、夕焼けが沈んで星が煌めき始めた美しい風景が広がっている。

游(俺に、圧倒的に足りてないものとは……)
(優しさ? 漢気? うーん……)

咲良「さいっこーの景色だね」
嬉しそうに窓際へと走り出した咲良。
その時、ふと手が触れ合う二人。
二人とも、はっと頬を染めて慌てて一歩離れる。

咲良(おかしいよ)
(どうかしてる)
(コイツに、こんなにドキドキするなんて)

咲良(あの頃を思い出せ)
(あの頃を……)
咲良がじっと考える背景で、子どもの頃の二人の様子が浮かぶ。
・ギッと咲良を睨む游に、ビクッと肩を震わせる咲良。
・咲良の頭に毛虫を乗せてひひっと笑う游。イヤーッと泣く咲良。

咲良(うん、やっぱりイヤなヤツでしかない!!)

ちらっと游のことを見る咲良。
咲良(コイツは私に勝てれば……それでいいわけで……)

視線に気づく游。
游「なんだ?」

咲良「……ずっと聞いてみたかったんだけど」
咲良「もしも、游がすぐに私に勝ったら、この結婚はどうなるの?」
咲良「すぐに……離婚?」

游「……それは……」
慌てながらも、じっくりと考える游。

それを見ている咲良。
咲良「この前、私に笑顔でいてほしいって言ってくれたこと……嬉しかった」
咲良「だけど、別に好きでもない私と結婚だなんて……」
咲良「游にとっても、苦痛なんじゃないかなと思って」

そんなことを思っていたのか、と咲良を見つめる游。
咲良「だから、一応確認させて」
咲良「游が勝ったその後は、私達は、どうなるのか」

真剣な顔になって、答えを待つ咲良。

そこで、ようやく気付いた様子の游。
游(そうか……俺に、圧倒的に足りていないもの)
游(それは……)
游(言葉)

游、言葉を選びながら咲良の手を取る。
游「お前と……離れるつもりはない」

咲良「え?」
思わぬ言葉に、目をぱちくりさせる咲良。

游「あの頃から……ずっと見ていたんだ、咲良のこと」
咲良「見てた……?」
咲良「……睨んでたの間違いじゃなくて?」

游「イジワルをしたのは認める。悪かったとも思ってるし、大人気ない自分が、今となっては恥ずかしくて仕方がない」
游「だけど、どうしても、お前に振り向いてもらいたかった」

游「咲良が描く絵や、描いている幸せそうな姿が、すごく好きで……」
游「咲良のことが、好きだから……」

はっとする咲良。
咲良(好き……?)
(游が、私のことを……?)

真剣な目で、游は咲良を見つめる。
手を、優しく握り直す游。

游「咲良……お前が好きだ」
游「あの頃から、今もずっと」
游「だから、俺と結婚してほしい」

手を握り合ったまま、見つめ合う二人。
綺麗な夜景が、二人の向こうに広がっている。

〇車内(夜)
運転席の松本が、バッグミラー越しにチラっと後部座席を見る。

後部座席には、游と咲良が座っている。
おたがい、それぞれの窓の方を向いていて沈黙が続いている。

松本(これは……何かあったな)
心配している松本。

〇桜庭家があるタワマン・外(夜)
バタンと、車のドアが閉まる。
咲良「ありがとうございました」
と無表情で頭を下げる咲良。
咲良(宝山游が……)

〇同・エレベーターの中(夜)
ウイーンと上がっていく咲良が乗るエレベーター。
咲良、無表情のまま。
咲良(私のことを、好きだった……?)

〇同・桜庭家の玄関・中(夜)
咲良「ただいま……」
無表情のままの咲良。
リビングからは、「きゃはは…」といったたけるの笑い声が聞こえる。
咲良(それに、今も――)

〇回想・高層ビルの最上階(夕方)
游「咲良……お前が好きだ」
游「あの頃から、今もずっと」

〇回想ここまで
〇同・桜庭家の玄関・中(夜)
咲良(私のことを――!?)
ぶわっと顔が赤くなり、汗がダラダラの咲良。
ゆき子「おかえりー?」
という声がリビングから聞こえる。

〇同・廊下(夜)
リビングのドアが開き、ゆき子が出てくる。
同時に、咲良が自分の部屋に入りばたんとドアを閉める。
ゆき子「咲良、帰ったのー?」
部屋の中から、
咲良「うん!」
という声。

〇同・咲良の部屋の中(夜)
片付いた咲良の部屋。
ベッドにぼふっと飛び込み、枕を抱える咲良。
顔は赤いまま。
ゆき子の声「ごはんはー?」
咲良「食べた~!」

ゆき子の声「あら、そう?」
心配そうなゆき子の声が、遠ざかっていく。

枕を抱えたままじたばたと考える咲良。
咲良(どうしよう、どうしよう)
(宝山游が、私を好きだったなんて)
(どうしよう!)
(いや、どうしようもないんだけどさ!)
(むしろ、これっていいことだよね??)
(愛のない結婚じゃない、ってことなんだもんね?)
(でも、アイツに愛があったとして……)

(私のほうは、どうなの?)

じっと考える咲良。
そしてはっとする。

咲良(私はただ游の好意を、利用しようとしてる……)
(悪い女!?)
一大事なことに気づき、青ざめる咲良だった。

〇車内(夜)
静かに走っていく車。
後部座席に游が座っている。

運転席の松本が、ようやく話しかける。
松本「……大丈夫ですか、游さん」

游、そっぽを向きながらも顔を真っ赤にして。
游「大丈夫じゃないですよ」
松本(あ、大丈夫そうっ)
何かあった出来事が前向きであることがわかり、ようやく安心する松本。

游「ようやく、第一歩を、踏み出せたような気がします……」
松本「そうですか」
嬉しそうな游と、優しく微笑む松本。

游「俺の気持ちは、ハッキリ伝えました」
游「あとは……あいつの気持ち、ですね」
物思いにふける游。
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