甘く愛されて大人になる。 ハイスペックな幼馴染との結婚ごっこ
5.相応しくない

5.相応しくない

悠生「俺は帆音の彼氏じゃないですよ。
でも、
彼氏になれたらいいな〜とは思ってます」

突然、にっこり笑って悠生が答えた。

帆音(悠生?!何言ってんの?!)

びっくりして焦る帆音。
目を見開いて眉間に皺を寄せ、言葉を失う橙和
面白そうに笑顔になる光歌莉

光歌莉「そーなの?がんばれゆうせー!」
目をキラキラさせてガッツポーズをする光歌莉は悠生の言葉をすっかり受け入れている。

悠生「頑張りま〜す」
ヘラヘラとガッツポーズを返す悠生
悠生「ねっ、帆音♡」
悠生が帆音ににっこり笑いかける

帆音(ねっ♡じゃない…!
悠生が私の彼氏になりたい…?!
いや、そんなわけないでしょ?!)

混乱で戸惑う帆音
チラッと悠生をみると、
奴は顔を伏せて声を殺して笑いを堪えていた。

悠生(ククククク…)

帆音(やっぱり面白がってる…!クッソー!!)
怒って赤くなる帆音

光歌莉「帆音ちゃん顔真っ赤」
帆音「えっ?!」
(いやだって頭にきて…)

それを聞いて表情がさらに曇る橙和
またもお腹を抱えてこっそり笑う悠生

橙和「帰ろ、帆音。
光歌莉。また連絡する」

光歌莉「うん。あ、待って、これ」
橙和に鍵を手渡す光歌莉

光歌莉「こないだ忘れたでしょ。うちの鍵」
橙和「ああ」

帆音(鍵?!こないだ…?)
帆音モノ:橙和と光歌莉さんって…
うろたえる帆音

先に歩き出していた橙和が振り返り帆音を呼ぶ
橙和「帆音っ」
帆音「あ、うん」
橙和に呼ばれ駆けていく帆音。

橙和と帆音の後ろ姿を見つめる悠生

悠生「面白くなりそ」
ニヤリとしてボソッとこぼす悠生と、
それを不思議そうに見つめる光歌莉。

◯夜の道
ズンズン歩いて行ってしまう橙和
遅れて駆けていく帆音

帆音「橙和、待って!橙和…!」
ハッとして、振り返る橙和

息切れしながら橙和の元に着いた帆音を、
切ない表情で、橙和が見つめる。

帆音の手を、橙和がそっと何にも言わず握った。
橙和「手、冷た…」
そう言うと、橙和は帆音の手を握って、自分の上着のポッケに繋いだ手を入れた。

橙和「帰ろ?」
帆音「…うん」

帆音「今日さ、ありがとう。ライブ観させてくれて。すっごいカッコよかったよ」
笑顔で橙和を見て伝える帆音

無言だけれど嬉しそうな表情の橙和

帆音「やっぱ橙和はすごいな〜って思った」
帆音モノ:カッコよくて、素敵で、別人みたいで、少し、遠くて…

帆音「眩しかった…」
少し寂しそうな顔をする帆音

橙和「ステージから、帆音が見えたよ。
すぐ分かった。俺が見てるの、気づいた?」

優しく微笑みながら、帆音の顔を覗き込む橙和

帆音「やっぱり目、合ってたんだ…」
橙和「うん」
帆音「よくあるファンの勘違いかと思ってた…」
橙和「なんだそれ。笑」
橙和「ずっと帆音を見てたよ。帆音に届けと思って、弾いてた」

優しい眼差しで話す橙和
話す橙和の横顔を見つめる帆音の
頬が染まり、瞳が光る。

帆音(橙和の言葉はいつも私を優しく満たす…だから、期待してしまう)

橙和「ん?何?」
照れて顔を逸らす帆音
帆音「いや、何でもないよ…」
帆音(もう、無視できなくなってきてる…自分の気持ち)
下を向き、頬を染めて、切ない苦しい表情の帆音。

◯橙和の家
リビングの灯りのスイッチを消す橙和の手
橙和「じゃあ、おやすみ」
帆音「うん、おやすみ」

それぞれの寝床に向かおうとする2人

帆音(ライブがあって疲れてるだろうに、私ばっかりベット使うの申し訳ないな…今日はやっぱ…)
橙和を呼び止めようと振り返る帆音。

帆音「橙…」
橙和「帆音」
と、橙和が先に帆音を呼び止めた。
タイミングに驚く帆音。
帆音「え!何?」
橙和「今日さ、一緒に寝ない?」

帆音「うん…」

◯寝室
ベットに横になり布団をかぶっている2人
横にいる橙和を見つめる帆音
帆音(なんか、一緒に寝るの初めてじゃないのに、緊張するな…)

ドキドキして落ち着かない帆音
帆音「子守唄でも歌ってあげようか!今日は私が!」
帆音は緊張を打ち消すように明るく話し出した。

橙和「ふ。じゃあ歌って」
笑顔で答える橙和。

帆音「了解。
ねんねんころりよおころりよ〜橙和は〜良い子だ〜ねんねしな〜」

帆音が橙和を優しくポンポンしながら、ゆっくりと唄う

帆音(うう…ミュージシャン相手に歌うの緊張する…でもこういうのは堂々とした方が恥ずかしくないから…!)

帆音「ねんねんころりよ〜…」
ポンポンしていた帆音の手を掴んで、
橙和が自分の頬に持っていく。
橙和は帆音の手に頬擦りする。

帆音(ドキ…)
赤くなる帆音

橙和「ありがと。俺、帆音の声好き。また俺の為に歌って?」
嬉しげに、満足した顔で、帆音の手に顔を寄せながら話す橙和。

帆音「うん…」
照れつつも、少し表情が陰る帆音

帆音「あのさ、光歌莉さんて…どんな関係なの?」
帆音(光歌莉さんにも、こんな風に歌を褒めたりするのかな…)

橙和「光歌莉?は仲間だよ。音楽仲間。
アイツの歌は力強いから、そういう曲を作る時は歌ってもらうこともよくある」

帆音(音楽仲間…)

橙和「俺が音楽の世界で知ってもらえるようになったのも、光歌莉が歌ってくれた曲が広まったからっていうのが大きいんだ。
仕事ではお世話になりっぱなしかな。
尊敬してる。
仕事以外では子供みたいな人だけど」

橙和が笑いながら、砕けた口調で、柔らかく話す。

帆音「そうなんだ…。大切な人なんだね」
橙和「うーん、まぁ。仕事でね」

帆音(でも、仕事自体が、音楽が、橙和にとってはかけがえのないものだから。
光歌莉さんのこともすごく大切なんだろうな…)

表情が暗くなる帆音
帆音(どうしよう、気持ちが沈む…。
胸の奥が、モヤモヤして、苦しい)

苦しい表情の帆音
帆音(なんで私って、こうなんだろう…)

帆音モノ:大切な人の大切な存在を、私はいつも受け入れられない…

帆音がこっそり落ち込んでいると
橙和が帆音の方を向いて横になり、
頭に手を置いて上体を支える体制になった。

橙和「帆音は?」
帆音「へ?」
橙和「アイツとどういう関係なの?ゆうせい」
帆音「え?クラスメイトだよ。立夏っていう友達と、3人で席が近くて仲良しで…」

橙和「でもあいつ帆音の彼氏になりたいって言ってた」

ふっと笑う帆音
帆音「あれは!悪ふざけ!
悠生、本当気分とかノリで生きてて。
面白そうだなと思うと突っ込んでいっちゃうタイプなんだよ。
基本的にはいい奴なんだけど…たまに悪ノリしちゃうっていうか。
今日も言いながら、ずっと隠れて笑ってるし。
まったく。
明日学校行ったらちゃんと怒るし文句いうから!」

プンプン怒る帆音

橙和「帆音はどう思ってるの?あいつを」

逃がさない、というように鋭く帆音を見つめる橙和。

帆音「どうって、困ったなって思ってるよ?
本当困ったクラスメイトだよ」
はぁっとため息をつく帆音。

橙和「俺のことは?」
帆音「へ?何?もう一回言って?」
橙和「…何でもない…」

ギシ…ベットが軋む音が鳴る
手で頭を支えて横になっていた橙和が、
帆音の方にゆっくり倒れてくる。

帆音はベットに床ドンされたみたいな体制になって、
橙和の身体と顔が、帆音の目の前に来た。
帆音「橙和…?!」

橙和「…キスしていい?」
顔のすぐそばで橙和が話す。
もう今にも唇がくっついてしまいそうな距離だ。

帆音(どうしよう、拒否、できない…)
帆音「なんで…?」

苦しげな表情で聞き返す帆音。

橙和「いいよって言ってよ」
橙和から、帆音へ向けられる気持ちと欲情が漏れ出ていて、その色気に帆音は屈してしまいたくなっていた。

帆音モノ:橙和は、私を求めてくれているのかな

帆音(今すぐ、すり寄って、寄りかかって、抱きつきたい)
帆音モノ:でも

帆音「私は、橙和にふさわしくないと思う…」

精一杯目を逸らし、伝える帆音。
橙和「何それ…」

帆音「今日、そう思った。
私、全然変われてない。
お父さんに反抗して、
橙和に甘えて、わがまま言ったって、全然、ダメだよ。気なんか済まない。
大人になんか、なれない。

わがままが膨れ上がって、もっと嫌な奴になるだけだよ。
そんなの、自分で私、自分が怖いもん。
橙和だって、そんな私、きっと嫌になる」

泣きそうな顔で言う帆音。

橙和「そういう帆音で良いって言ってるじゃん。
そりゃ…全部が全部、叶えられないかもしれないけど、なんでそうやって、言う前から諦めるわけ?
俺が嫌になるとか、勝手に…。
帆音の本心が、聞きたいのに…」

帆音の顔を掴んで、キスしようとする橙和。
帆音「やっ…」
ぎゅっと目を閉じる帆音

橙和は、泣きそうな顔で帆音を見つめ、
そっと、頬にキスをした。
橙和「相応しくないって、なんだよ…。
俺のことが嫌なら、そう言えば良いよ…」

ベットから降りる橙和
橙和「ごめんやっぱソファで寝るわ」
そう言って橙和が寝室を去った。

残された帆音は、キスされた頬を手で押さえ、静かに泣いていた。

◯帆音の教室

自分の席で、机に顔を伏せている帆音

帆音モノ:朝起きたら、橙和はもうすでに家を出ていた

帆音(橙和、怒ってるのかな…)

悠生がやってくる
悠生「帆音おはよ!
ねぇ昨日どうだった?
橙和くんとひと修羅場起きちゃった?!」

目をキラキラさせてミーハーに聞く悠生
帆音「……」
帆音は机に顔を伏せたまま何も答えない。
帆音の周りには重苦しい雰囲気が漂っている

悠生「帆音〜?どした〜?
なんか変なもん食べたか〜?おーい」

立夏「やめときな。朝からずっとこうだから」

悠生「そうなの?つまんなーい」
しゃがんで、
帆音が伏せる机に顔をつけながら、
ぶりっ子した態度の悠生

突然、悠生の髪をガッと掴んだ帆音

悠生「痛い痛い痛い…!」
髪を引っ張られ痛がる悠生。

帆音「悠生、アンタ良い加減にしなさいよ…!
嘘はダメでしょ!?
何が彼氏…悠生私のこと好きじゃないでしょ!」

帆音がめちゃくちゃ怒った顔でドスの聞いた声で悠生の髪を引っ張りながら怒る。

悠生「いたーい!好き好き!彼女にしてあげても良いって思ったことあるのは本当だもん」
顎に手を当てて涙目でぶりっ子を続ける悠生

帆音「願い下げ!!彼女に!
していただかなくって結構です!!」
怒って捲し立てる帆音

帆音「今度その話題でふざけたら絶交だから!」

悠生「絶っ交…ククククク…www」
身体を曲げて座り込んで、 
大きな声で笑うのを堪える悠生。

帆音「悠生!!」

帆音が悠生を睨む
悠生「はーい」
悠生は、渋々といった感じで返事をした。

悠生「本心なんだけどな…」
しゃがんだ体勢で下を向いたまま、
帆音にも立夏にも聞こえないような小さな声で、悠生がつぶやいた。

◯階段
帆音と立夏がお弁当を持って並んで歩いている

立夏「なんかあったでしょ?
悠生のこと以外に」

突然、真剣に問いかける立夏
振り返る帆音

帆音「…バレてる?」
立夏「ずっとバレてる」

◯空き教室

机に広げられたお弁当

立夏「…ちょっと、情報量が多いな」
机に広げられたお弁当を前に、頭を抱える立夏。
机を挟んだ向いには、帆音が座っている。

帆音「だよね(汗)」
立夏「まさか同居してるとは…しかも結婚‥ごっこぉ?!」

帆音「いろいろあったんだよぉ〜」

立夏「いや、分かるよ。帆音のおじさんの再婚話からの、帆音の不安定な気持ちからの、橙和くんの曲のためにっていう……結婚ごっこ的な…
っていや分からん!!
なんだよ結婚ごっこって?!
やっぱり情報量多いわ!
しかも離婚しかけてるやん…!」

激しく突っ込む立夏に、
大袈裟に泣きそうな顔をする帆音

帆音「離婚とか、言うのやめて」
立夏「ごめん。なんかちょっと混乱して」
手を合わせて謝る立夏

帆音「お父さんと離れて考えたくて…。
お父さんの結婚のこととか、自分のこととか。
橙和が、逃げ場所をくれて、優しくしてくれて…」

立夏「好きになっちゃって?」

立夏の言葉にまた泣きそうな顔をする帆音

立夏「両想いなんじゃないの?
どーでもいい子に普通そこまでする?」
お弁当を食べながら冷静に分析する立夏

帆音「…うーん。私は、ものすごい嫉妬深いんだよ。だから、ダメなんだよ」

帆音(相手の大切な存在に嫉妬して、
幸せを喜べないなんて…)

立夏「嫉妬はみんなあると思うけどねぇ」

帆音「私のはなんか、めっちゃドス黒いんだよ…」
帆音(相手もろとも、不幸にしそうで…)
うなだれる帆音

立夏「どうなるにしても、
一回素直にはなった方がいいと思うよ。
自分のために」

帆音「うん…」
立夏の言葉を、虚ろに受け止める帆音。

◯下駄箱

下駄箱にカバンを持って、靴を履き替えている帆音と立夏

立夏「帆音、なんかあったら、私のこともちゃんと頼るのよ。
駆けつけるから」

帆音「立夏ちゃぁん!」
立夏に抱きつく帆音。
立夏「はいはい、じゃね」
帆音「うん、ありがとう〜」

校門でバイバイする2人。
立夏の後ろ姿を見送る帆音。

帆音(素直に…そうだよな。ドス黒い自分を、自分でもちゃんと見ないと)

帆音モノ:怖がって逃げ回って、迷惑かけてばかり、いられないや…)

くるりと向きを変えて、自分の帰宅路を歩き出す帆音

あかり「あの、帆音ちゃん…?」

帆音が誰かに名前を呼ばれて振り返ると、
そこにはあかりさんが立っていた

帆音「あかりさん…?!」
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