憧れの街で凄腕脳外科医の契約妻になりました。


 結局仁田先生の私に対する「お願いごと」が何なのか、聞かされることがないまま私たちはBarに戻ってきた。

 先ほどのテーブルには羽倉先生が一人で座っていて、パソコンを広げて何やらお仕事をしているようだった。羽倉先生の眼鏡姿がかっこよくて心臓が大きく高鳴る。

 仁田先生は羽倉先生に「お嬢様連れ戻し大成功でーす! 今度のオペは私が執刀しますからねー。羽倉先生は私の助手ですよー」と言いながら得意気に私の背中を押した。

 羽倉先生はパソコンに向けていた目を私に向け、安心した表情でパソコンを閉じ眼鏡を外した。

「ご苦労様です。今日は僕の奢りなんで、遠慮せずに食べてください」

 羽倉先生の言葉に奢る予定だった柳先生は『よっし!』とガッツポーズをして喜びを露にしていた。

「えーっと、じゃあ、どうしようか。亜矢ちゃんは羽倉先生の横に行く?」

「はい!」

 座席には私の前が仁田先生で仁田先生の隣が柳先生という形で椅子に腰掛けた。

 ……羽倉先生がいるだけで今までにない緊張が襲ってくる。


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