愚かなキミの、ひと目惚れ事情。【完】
静寂に包まれて、真っ白な半紙に向き合う時にだけ訪れるあの高揚感。
墨の匂いを感じた時にやってくる、筆を取るまでのどこか現実離れした一瞬。
将来は書道の師範代まで昇級していけだとか、大学に通って書道教師の資格を取れだとか、そんな難しい話はどうでもよかったし、人と関わるのは面倒だ。
この紙を見つめている瞬間だけ、私は息をすることができた。
この筆を滑らせているその時だけ、私はありのままの自分を表現することができた。
このひとときが最高の癒しであり、私が私でいられる場所だった。
私がいていい、場所だったんだ。
あの時まで、は──。
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