愚かなキミの、ひと目惚れ事情。【完】
05.

*****



「……アンタ、冗談でしょ?」

「葉ちゃん顏が怖いよ。そういえばまだ一回も俺の前で笑ってくれたことないよね」

「ふざけてんの?」

「まさか」



瀬名川のことなんて微塵も知らなかったはずなのに、どうしてか彼の苗字に見覚えがあったのは、彼が……有名な書道家の孫だったから。


書道界の中でも別格の流派を代々受け継ぎ、数々の本を出し、全国各地にたくさんの生徒を持つこの瀬名川家当主は、名瀬川 祥の祖父だった。




日本を代表する彼が一文字書すたびに数百万円の価値がつき、その人脈は計り知れない。



そんな人の、孫。

そんな人が、今、皮肉にも私のとなりにいる。


これを偶然だなんて言わせない。


書道を諦めざるを得なかった私を、たまたま好きになり、たまたま街の路地裏で見かけて、たまたま彼氏になっただなんて都合がよすぎる。




迂闊だった。

少し調べればすぐに分かることだったのに、それすら思いつかなかった私はバカだ。




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