Close to you


 私はここからどう真弓を説得するか、頭をフル回転させる。


 今日は塾に行く日じゃないし、家庭教師の先生が来る日でもない。


 お母さんはエステサロンに行く日だし、奥野さんがギリギリ残っているか……。


 一か八か、大声を出して奥野さんに助けを求めてみる?


 私は息を大きく吸おうとした。



「でもね、ホントは知ってた」



 息が、止まった。



「そんなの、あり得ないって」



 真弓は、泣いているようにも笑っているようにも見える顔で続ける。



「でもね、嬉しかった……私でも愛してくれる人がいるんだって、そう思えた」



 私はおもむろに息を細く吐きだした。



「ウソでも良かった」



 真弓はあっさりと私の身体から退いた。



「ずっと、騙されていたかった」


「でもそれじゃ、真弓は──」



 そのまま「幸せになれない」と続けようとした。



「バカみたい」
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