Close to you


 なんでもないような、くだらないギャグのように笑いとばしてほしいのに。


 ……まぁ、無理だよね、そりゃ。


 冷静になった瞬間、後悔と恥ずかしさがおそってくる。


 私は下を向いて、この時間が早いとこ終わってくれるようにと祈った。


 街灯が2人分の影を作り、斜めに伸びたかと思えばすぐに闇へとけていく。


 
(家まで、まだだいぶあるな……)



 ため息を吐くと、空気が白くなってすぐ消えた。夜になると、冬に戻ったようになる。それでも少しずつ暖かくはなっていると思う……たぶん。



「あのさ」



 奥野くんの言葉が聞こえたとき、私は一瞬、幻聴じゃないかと思った。自分の心のなかしか見ていなかったから。



「……あ、えっ、なぁに?」



 だから、ちょっと遅れて反応してしまった。ああダメだ。消えてしまいたい。


 奥野くんはこちらを見ずに、顔を上げて真っ直ぐに前を向いていた。スッキリした顎のラインが美しい。



「無理に明るくする必要、ないと思う」



 その言葉になにも返せなくて、家に着くまで小さくなってトボトボ歩いた。
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