Close to you


 だとしたら、狙いはなんなんだろう?


 考えれば考えるほどドツボにはまっていく。



(家に着いてから考えて……ダメだ、そんなヒマない)



 車内にアナウンスが流れる。私が降りる停留所の名前だった。


 ボタンを押すとチャイムを鳴らしたような音がして、「次、止まります」と低い呟きが続けざまに聞こえてきた。



(家だとお母さんの顔色うかがって過ごさないといけないし……)



 ああ、もう、どうしてこんなに悩まないといけないの。


 バスは発車したときと同じくらいゆるやかに停車した。ブザーが鳴ってドアが開く。


 私はカバンを抱えて小走りでバスから降りた。桜の花びらが絨毯のようになっている歩道を、黒いローファーで踏みつける。


 カバンを肩にかけると、うつむきながら家まで歩いた。街灯に照らされて伸びる影を横目に、今日来るはずの家庭教師の先生について考える。



(また3ヶ月で辞めます、とか言い出さないといいけど)
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