シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
Prologue
希幸(きさき)が大きくなったら、僕たちのウェデングケーキを作ってよ」

 幼い頃の約束を胸に、私はベリが丘駅に降り立った。
 駅のホームから北に見える櫻坂。
 その桜並木には、桜の花がまだ心ばかり残っていて、花びらがはらはらと風に舞い落ちている。

 私が約束を交わしたのは、櫻坂の突き当りにある厳重警備の門の向こう。
 富裕層のみが住むことを許されたノースエリアにある高級住宅街、幾美(いくみ)財閥の御屋敷だ。

 幾美家嫡男の慧悟(けいご)さんと、この約束を交わした。

 何かのホームパーティーの間だった。
 私が、初めて焼いたケーキを渡したときだった。

 あの頃は、『僕たち』というのは、『私と慧悟さん』のことだとばかり思い込んでいた。
 そのくらい、私は彼に惚れていたし、彼も私のことが好きなのだと思い込んでいた。

 けれど、それはもう15年も前、私が10歳の頃の話。
 今思えば、勘違いも甚だしい話だ。

 というのも、慧悟さんには当時から許嫁がいたし、私は母が家政婦をしている幾美家のパーティーの手伝い要員として出入りを許されていただけだった。
 身の程を弁えず、ズカズカと向かってくる使用人の娘である私にも、慧悟さんは優しく接してくれた。

 それを私が勝手に、彼も私に気があるのだと思い違えていたのだ。
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