シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
 ビスキュイが焼き上がる。
 いつもはメインを焼いた後の予熱を使うから、私だけのために温められたオーブンに特別感を感じる。

 取り出したビスキュイを冷ましながら、鼻を近づけ香りを確かめた。
 爽やかで、優しくて、スパイシー。
 まるで、私の幾美家に対する気持ちのよう。

 ――慧悟さんは、もっと甘い方が好きだろうな。

 甘党の慧悟さんなら、このビスキュイよりもシュクルリ―がいいだろう。
 ムラング(メレンゲ)の焼き菓子のみたいに、甘くて蕩けるような。

 考えるより先に手を動かした。
 ビスキュイは焼き上げる前にグラニュー糖の雨を降らせ、きらきらと輝く宝石のように。

 泡立てたムラングは粉砂糖と合わせて、ほろほろと口の中で溶けるシュクルリーに。

 別々に食べると、爽やかな香りが甘さで際立つ。
 一緒に食べれば、甘みの中に爽やかさが突き抜ける。

 ――うん、これだ。

 頷くと、私はデリカバットに試作品を並べた。
 明日、料理長に許可を経たら、幾美家ご夫妻に正式に提案してみよう。
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