シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~

13 向こう側とこちら側

「前埜さん、どう?」

 気後れするくらいのきらびやかな会場の中で、突然私の知った優しい声がする。
 ほっとして身体から幾分力が抜けた。

 けれど、目の前にいたオーナーはいつもよりびしっとしたスーツをきっちりと着こなしていた。
 まさにイケオジ。この間、畑で会った時とはまるで別人だった。

「オーベルジュの宣伝もしてくれてるんだって? もうね、上等だよ」

 紳士なウインクを飛ばされ、思わず目をパチクリさせる。
 するとオーナーはケラケラと笑った。

「姫川様、ご無沙汰しております」

 そんなオーナーは、すぐに別の紳士に話しかけられてしまう。

「やあ、しばらくぶりだね。どうだい? このドルチェ、うちのオーベルジュの若き精鋭、前埜パティシエールのものだよ」

「先程頂きましたよ! もう、素朴な味わいなのに後味も良く……見た目の華やかさもさすがで、――」

 話しながら、二人はどこかへ行ってしまう。
 去り際、オーナーはこちらに笑みを向けてくれたけれど、それでもやはり彼も向こう側の人だった。
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