シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
 パーティー会場を出ると、足早にホテルの従業員スペースへ向かった。
 デリカバットを片付けながらこみ上げてくるのは、自分への嫌悪感だ。
 胸を襲った動悸に、吐き気すら感じる。

 あの場にいたら、慧悟さんに会ってしまう。
 もしも目の前に、慧悟さんが来たら――。

 私は捨てたはずの想いを捨てきれていない。
 自分の卑しさは、住む世界の違いを見せつけられてもなお自分が特別であることを主張しようとする。

 私は特別なんかじゃない。
 どうあがいても、財閥と庶民の壁は越えられない。

『幾美家は然るべき家柄の人と婚姻を結ぶ。それか財閥のしきたりなの。そうやって、幾美家は名誉と誇りを維持してきたの』

 小学生の頃に奥様に言われた言葉を、一字一句正確に覚えている。
 それだけ、胸に刻んだ言葉のはずなのに。

 どうして好きになってしまったんだろう。
 どうして抱かれてしまったんだろう――。

 涙がこみ上げる。
 ぼやけた視界は、なぜだかぐるぐると回っていく。

 あれ、私――。

 日頃の寝不足が祟ったのか。 
 私は慌てて化粧室へと駆けた。


 けれど、もつれた足は私の体重を支え切れない。

 無茶しすぎたなあ。精神的にも来てたんだなあ。
 でもきっとここで倒れてしまえば、もう幾美家に関わらないようにそっと生きられるなぁ。

 斜めになっていく風景が、やたらスローモーションのように感じて、不意にそう思った。

「希幸――っ!」

 ああ、ほら。無茶しすぎたせいで、幻聴まで聞こえる。
 卑しい私の、胸にただ一人いる愛しい人の声――。

 ――私はそのまま、意識を手放した。
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